著者: 無職仙人
第2話: 第二話:もふもふ就活講座
「なあ、お姉さん。ほんとに就職したいんでござるか?」
「いや……正確には、“ちゃんとしたフリ”をしたいだけ」
「なるほど、それは“就職したい風”でござるな」
町の喫茶店「月見堂」。 今日も無職仙人サトルは、コーヒー片手に奇妙な哲学を語っていた。
「でも、履歴書書くのって、なんか……こう、自分を盛らなきゃいけない感じがして、疲れるんですよ」
「わかるでござる。履歴書は、己の“盛りカルタ”でござるからな。“社交性あり”とか“責任感が強い”とか、どこかで見たような札ばかり」
「じゃあ、サトルさんならどう書きます?履歴書」
サトルは腕を組んで、しばし考えた。
「――“特技:だいたい空を見てる”」
「不採用一直線じゃないですか」
「いやいや、空を見てるってことは、視野が広いってこと。大局を見る目を持ってるとも言える!」
「……それ、面接で言ったら一周回ってアリな気がしてきた」
「でござるだろ?」
二人の会話に、カウンター奥のナツメがまた苦笑い。
「……なんだこれ、就活講座なのか?」
けれどその日から、彼女――本名ユカは、週に一度だけ「月見堂・就活クラブ」と称して通うようになった。 カフェラテを飲みながら、履歴書の“もふもふバージョン”をつくる。サトルは妙に真剣だった。
「“長所:一度ハマると寝食を忘れる。短所:寝食を忘れすぎる”とか、正直で好感が持てるでござる!」
「“前職で得たスキル:深夜テンションでプレゼン資料が仕上がる能力”……いいんでしょうか、これ」
「逆に気になるから、面接まで呼ばれるでござる」
奇抜な発想と笑いの中で、いつしかユカは「働く=苦行」ではなく、「働く=選択肢」として見直し始めていた。
そんなある日――
「受かったんです、面接」
「おおおおっ!まさか“寝食忘れ型”が通ったでござるか!?」
「いえ、それじゃなくて……“趣味:空を見ること。理由:自由を感じられるから”って一文が、面接官に刺さったらしくて」
サトルはコーヒーカップを掲げた。
「空の力、恐るべしでござるな!」
ユカも静かに微笑んだ。
「でも……たまにサボりに来ていいですか?」
「もちろん。“がんばりすぎないでござるクラブ”は、いつでも開店中でござるよ」
こうして、「月見堂」にはまた一人、“働きながら休むことを学んだ人”が加わった。
そして今日も、どこからともなくサトルの声が響く。
「はたらきたくないでござる~!」
……けれど、誰もそれを否定しなかった。