無職仙人の話

著者: 無職仙人

第5話: 第五話 「“働きたくない人”だけの就活イベント、爆誕」

喫茶店「月見堂」に、貼り紙が出た。


【月見堂 期間限定イベント】 「働きたくない人のための、ゆるっと就活トーク会」開催!

● 就活したくないけど、なんか将来が不安な人 ● 面接で“本当の自分”を言いたい人 ● 「働かなくて済む方法」も含めて一緒に考えたい人 ● サトルに会いたい人(リモート登場予定)

入退場自由・履歴書不要・ドレスコード:もふもふ自由


■ SNSで話題に「月見堂、狂ってて最高」

貼り紙の写真がSNSに投稿されるやいなや、たちまち話題になった。

「これ絶対行きたい」 「“履歴書不要”って最高すぎる」 「働きたくない気持ちを、否定しないってだけで泣きそう」

気づけば「#月見堂就活」がトレンド入り。 普段は常連ばかりだった喫茶店に、見慣れない若者やスーツを脱ぎ捨てた転職組が集まり始めた。


■ イベント当日:ゆるっと、でも本音

「えー、本日は“働きたくないけど働くかもしれない会”にお越しいただき、誠にありがたきことでござる!」

リモート出演のサトルは、背景に空の写真を合成して登場した。 スクリーン越しに、相変わらずの着流しとバンダナ姿。

「ではまず、皆さんに質問。 “いま、やりたくないこと”を、正直に言ってほしいでござる」

店内は沈黙――のち、ひとりがぽつりと言った。

「……朝起きて、スーツ着て、通勤電車に乗ること」

「それな!」

「あと、笑顔で“やりがい感じてます!”って言うこと!」

次々と飛び出す、“やりたくないこと”の本音たち。 それを聞いたサトルは、大きくうなずいた。

「みんな、ちゃんと生きてるでござるな。 “やりたいこと”じゃなく、“やりたくないこと”から始める人生、あっていいでござる」


■ 働くとは、「選ぶこと」

会の終盤、ユカがマイクを取った。

「実は、私も前の職場では“やりたくないこと”を全部我慢してました。でも、“月見堂”でそれを吐き出して、“働きたくない”って言える場所があったから、今は“働いてもいいかも”って思えるようになったんです」

ナツメも笑う。

「“はたらく”って、“仕方なく”じゃなくて、“選べる”ものにしたいよね。ここは、選ぶ前に一息つく場所なんだから」

最後にサトルが一言、締めた。

「未来にビビってもいい。 働かなくても、居場所はある。 でも、もし働くなら、“自分の心”がやりたいって言う働き方を、選べるようにしてほしいでござる」

拍手は、静かに、でも確かに響いた。


■ イベント翌日、ナツメのつぶやき

「バズったのはいいけど…… うち、喫茶店なんですけど……?」

そう言いながらも、カウンターに置かれたメッセージカードには、 来場者からのこんな言葉が並んでいた。

・ 「ここで初めて“はたらきたくない”って言えました」 ・ 「安心して未来の話ができる場所でした」 ・ 「また来ます、“もふもふな心”で」

ナツメは深いため息をつきながら、微笑んだ。

「……あの無職仙人、やっぱり侮れないわ」

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