著者: 無職仙人
第4話: 第四話:さようなら、無職仙人?
その日、喫茶店「月見堂」はいつになく静かだった。
天井を仰ぎ、「はたらきたくないでござる~!」と叫ぶ男――無職仙人サトルの姿が、どこにもないのだ。
ナツメは腕を組みながら、カウンター越しにユカに言った。
「……来ないわね、今日は」
「珍しいですね。昨日も“冬は無職のゴールデンシーズンでござる”とか言ってたのに」
すると、店の扉がチリンと鳴いた。 だが入ってきたのは、スーツ姿の男性。整えられた髪、まっすぐな目。なんともまじめそうな雰囲気。
「……あの、こちらに“サトル”という者が、よく来ていると聞きましたが」
ナツメとユカは顔を見合わせた。
「あなたは?」
「兄です」
その一言で、店内の空気が変わった。
■ サトルの正体
話によると、サトルは大学時代は優等生だったらしい。 卒業後、大手企業に入社するも、半年でドロップアウト。そこから数年、家族とも連絡を断っていた。
「もう、心配で。ある日、SNSで偶然“無職仙人”の投稿を見つけて……この店の名前が映っていたので来ました」
「投稿って……サトルが?」
ユカがスマホを取り出し、検索してみると――あった。
《もふもふ就活講座》《働かずに笑う術》《月見堂哲学》
フォロワー3万人の“無職系ライフハッカー”アカウントだった。
ナツメは思わずつぶやいた。
「……こっそり影響力持ってるじゃない、あの人……」
■ 再会と決意
翌日、サトルは現れた。
「おや、今日は空がしゃっきりしておるなあ~」と、いつもの調子で入ってきたところで、兄と鉢合わせた。
「……兄上」
「……サトル。無職、やめろとは言わない。けど、こんなに周りに影響を与えてるなら、正面から向き合ってみたらどうだ」
「向き合う?」
「君は逃げてるようで、実はすごく見つめてるよ、“働く”というものを。他の誰より深く。だったら、“働きたくない”じゃなくて、“働き方を変えたい”って言えばいい」
店内が静まり返る。
サトルはコーヒーをひとくち飲んで、ぽつりと言った。
「……じゃあ、ちょっと旅に出るでござる」
「は?」
「このままだと“ここに居座ってる無職仙人”で終わってしまうでござる。でも、そろそろ、“外に出た仙人”になってもいいかも」
■ そして、いなくなった
数日後、店の壁に、ひとつの張り紙が貼られた。
🌕 無職仙人、旅に出るの巻 🌕
また空を見に行きます。 空の広さは、働く意味を教えてくれるでござる。
でも疲れたら、またここに戻ってくるでござるよ。 だってここは「はたらきたくない人の、中継地点」だから。
それでは皆々様、ご自愛くだされ~
―― サトル
ナツメは、張り紙を読みながら微笑んだ。
「……まったく、いいところで消えるわね」
ユカが言った。
「でも、また帰ってきますよ、あの人は」
「うん。そのときは、特盛コーヒー淹れてやろうかしら」
今日も空は、もふもふだった。
つづく?